Archive for 日本語教師の毎日

「you」 を何と呼びますか?

ちょっと前になりますが、台湾出身で、長らく日本で一緒に仕事をしている彭さんのスタッフ・ブログを見て、さすがと瞠目しました。

日本語で、「名前を知らない相手を何と呼べば良いのでしょうか?」という命題です。

今日は、彭さんの文章に触発されて、以下、考察を試みてみたいと思います。

 

呼びかけたい時、彭さんが言うように「あの・・・、すみません」または「もしもし」などと言うしかありませんね。

初めて、呼びかける時だけでなく、話し相手の「you」を何と呼ぶかも、同様に困ります。

 

A:その方は、おいくつぐらいですか。

B:そうですね。ちょうど、「あなた」ぐらいでしょうか。

という会話は通常しません。この「あなた」を使わないということ自体が、本当に不思議な事ですが…

 

場や、状況によって、「あなた」ではなく、

「先生」・「運転手さん」・「店長さん」・「皆さん」などに入れ替えて話していますよね。

小さい子なら、

「坊や」・「お嬢ちゃん」

場合によっては、

「お二方」・「お三方」これは、若い人は、使用語彙ではないと言ってもいいでしょう。

「あなた様」もかなり丁寧ですし。

私も、二十代の頃は、初対面の年下の女の子に「お姉さん」と言われたことがありますが、年格好に合わせて、「おばさん」と言うのは、決して許されません。それを言ってもよいのは、子どもだけ(高校生ぐらいまで?)です。

ということで、「あなた」に言い換えることができない時は、ちょっと首をかしげながら、人差し指から小指まできちんと揃えて、相手を指し示すしかないのかもしれません。

 

と言うより、面と向かって、相手を話し相手として接する時は、会話の途中でも、

「あ、お名前、教えていただけますか」と言って、聞いてから会話を続けるのが、普通のことのようです。

「名前も知らない赤の他人」という言い方がありますが、日本語では、名前を知らないと、会話が出来ない言語なのかもしれません。

「名前なんか、あと、あと」というコピーの新興住宅街のテレビCМが、以前あったのを覚えています。

その住宅街に引っ越してきたばかりの子どもが、公園で、自然と仲間に加わっていく場面でした。名前を知らなくても、一緒に遊べるのは、やはり子供だけなのでしょう。

 

日本語クラスで、文型や表現の練習プリントをする時、

 

リン:サラさんは今夜の飲み会、行きますか?

サラ:私が言い出した会ですから、行       わけにはきませんよ。実は、体調が良くないんだけど。

サラさんが、第三者ではなく、「あなた」の意味だということが分かるように、上の文のように配慮しなければならないゆえんです。

同じく、

リン:サラさんは今夜の飲み会、行くかな?

トム:サラさんが言い出した会ですから、行       はずがないですよ。

のように、トムさんに、登場してもらって、会話の状況を学生にわかってもらう訳です。

 

彭さんは、「あの・・・、すみません」または「もしもし」などは、日本語独特な持ち味だと言っていましたが、同じ職場に外国人がいて、その人の自然な一言を聞けるのも、グローバルな職場の醍醐味だと思い、改めてありがたく感じています。

 

今日は、長期コースで日本語教師をしている神本がお送りしました。

 

写真は、夏草の中を走る「わたらせ渓谷鐵道」です。

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ぐでたま

「ぐでたま」というキャラクターをご存知ですか。「ぐでぐでやる気のないたまご」のキャラクターです。

 

登場してずいぶんたつのかもしれませんが、私が知ったのはつい最近です。ウィークリーコースの学生に教えてもらいました。その学生は、このぐでたまが大好きで、日本にいる間にグッズを買い集めているそうです。日本人の私より日本の情報に敏感で詳しい学生が多く、「外国人から教えてもらう日本」がたくさんあります。

この前の授業で、「思い出の場所」について話していた時、ある学生が「初めて告白された場所」について話すと、別の学生が「あの、どん、どん…。先生、何のどんですか。」と質問をしてきました。私は、ぜんぜんピンとこなかったのですが、クラスのほとんどの学生がすぐわかったようで、それは「壁ドン」だと教えてくれました。告白される時などに男性にされるとドキドキする「壁ドン」です。そんな話をしていると、突然、「あったかいんだから~。」とつぶやく学生の声が聞こえ、それに反応してまた別の学生が「ちょっと待って、ちょっと待ってお兄さ~ん。」と歌いだしました。テレビをつければ1日1回は聞こえてくる今流行のお笑い芸人のネタですが、日本に来たばかりの学生も知っていたようで驚きました。

週末、デパートで「ぐでたま」のキャラクターグッズを見かけました。その隣には、初めて見る「KIRIMIちゃん」という魚の切り身のキャラクターグッズも。どちらもサンリオのキャラクターだそうです。

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なぜ人は詩にひかれるのか?

インターカルトでは、中級以上のクラスで「目的別授業」という科目をやっています。

学生の好きなもの、ニーズによって選んで登録する、つまり、選択授業です。

この1月~3月の学期では、新しく「詩を音読しよう」という科目を私、神本令子が担当しています。

 

日ごろから特に詩というものに傾倒しているわけではないのですが、日本語で書かれたいろいろな詩を紹介し、学生一人一人に自分の好きな詩を見つけてもらえたら面白いなと思ったからです。また、「歌は歌われるために作られ」、「スピーチは語られるために書かれる」と同様に、「詩は読まれるために作られる」と思ったからです。この読むは、黙読ではなく音読です。

今学期は、卒業をひかえている学期ゆえ、その作品のよさをきちんと表現できるような発音で読んでみましょうという目論見もありました。

 

中から、一つでも二つでも「自分の好きな詩」を見つけるためには、選択肢が多いほうがいいとの思いで、できるだけたくさん紹介し、学生たちと解釈し合い、読んでみました。

扱った詩人は、

まど・みちお/茨木のり子/三好達治/木村信子/川崎洋/寺山修司/高村光太郎/

長田弘/工藤直子/辻征夫/山村暮鳥/大木実/河井寛次郎/岸田衿子/俵万智

 

有名な詩としては、

「雨ニモマケズ」

学生が気に入っていろいろな作品を紹介したのは

「相田みつを」と「金子みすゞ」

 

他に、現代社会を今、生きている人たちの詩として、

新聞に投稿された一般の人、いわば「無名の詩人」のものも紹介しました。10作品でした。

短くて読みやすいものを、一回に3~4つ紹介したので、その中からお気に入りの詩を選ぶのは、比較的たやすかったようです。

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また、阪田寛夫の「葉月」という大阪弁の詩は、大阪出身のH先生に大阪弁で録音してもらい、

その圧倒的異次元の世界に一同驚愕しました。

 

ロシアのI君は、恋愛っぽいロマンティックな詩が好きなようでした。

韓国のC君は、詩それぞれのよさを発見し、広く受け入れてくれたようです。解釈が常に深く、

私は時々、自分の浅薄な発想に恥じ入りました。

 

そして、台湾のS君、「これ、何を言いたいか全然わからない」「これが詩ですか。」といつも、

なかなか気に入ったものが見つかりませんでした。

その彼のリクエストで、「百人一首」の中から四つ紹介したら、「今までで一番いい」と言ってもらえました。中国の詩に似ているとのこと。もしかしたら、中国人の彼にとって、五言絶句や七言律詩の世界が詩の世界なのかもしれません。山水や草木、日や月を描き、あまり感情を語らないのが彼にとっての詩なのかも、と思いました。

 

以上、

いろいろな詩を探しながら、私にとっても幸せな目的別授業でした。

アキバの日本語

「アキパの日本語」 25名の受講生を集め、好評開講中です。

アニメ、マンガ、同人誌、メイド、あるいはゲーム、パソコン関係、さらには鉄道、その他その他、いわゆるアキバ的な風物、オタク文化と称されるものを取り上げるわけでは、あらず。それらは、学生の方がはるかに知っていて、新鮮味に欠けます。わざわざ取り上げるまでも、なし。もちろん、それらを各自の視点から解釈し、報告してもらうのも、アイディアとしては、あり。しかし、私は関心がありません。

そこで、扱うのは受講生の視野を広げるためのトピックの数々。そもそも、今の秋葉原駅は「秋葉原」には位置していません。正確には「千代田区外神田」。学生が知っている(徘徊している?)アキバは、その大半が「神田○○町」に該当します。秋葉原はもともと「アキバハラ」と呼ばれていました。というか、それがまっとうな読み方。そんな、歴史的、地理的、あるいは日本語的な小ネタからして大きな誤解が集積しているのが、今のアキバ。そして、秋葉原、お茶の水、神田の3駅を結んだ三角形のエリアとその周辺が、広い意味での「アキバ」と言えるでしょう。

で、初回の課題は、「万世橋」まで足を延ばすことでした。名店「肉の万世」のほか、近年オープンした「MAAch」という、旧万世橋駅下の商業施設。これらを知っていたのは、だれ一人、いません。行くはずなんて、ありません。神田川? なんて初めて知ったという受講生も。実際に足を運んでみて、こんなそばにこんなものが…驚いた…というのが大半の反応でした。yjimage

課題第2弾は、万世橋の向こう、つまり神田須田町、小川町、岩本町界隈に散在する「老舗」を訪ねること。食べてみること。もちろん、秋葉原駅周辺にもそういったお店があります。古くは江戸時代から、多くは明治時代から続く老舗の数々。受講生がどのようにレポートを書いてくるのか、楽しみです。

ネタは、探せばいくらでも転がっています。それをアレンジして提供するのが、私の仕事。次回の授業からは、アキバのディープな世界、さらに闇の部分にも踏み込む予定。その最たるものについて、いつかここで報告する機会があるでしょうか。

ちなみに、学生と評判のケバブを食べてきました。おいしかったです。

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うれしいクリスマスプレゼント

初級担当の島崎です。
今年は、クリスマスイブが秋学期の最終日。
当校では、担任の先生がクラスの学生と1対1で10~15分ほど話す「個人面談」となっています。
今学期 週に1回担当していた初級クラスの学生から、プレゼントがあるので、全員の個人面談が終わる時間に教室に来てほしい、と言われていました。
他の曜日の担当の先生といっしょに教室に入ると、部屋が暗くなって、学生たちのメッセージ動画が始まりました。
サプライズなので、動画内の日本語は間違いもありましたが、みんなの気持ちがとても強く伝わってきて、一同感激しました。

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実は10月にクラス授業が始まった当時、全員が新入生のクラスだったこともあり、授業中どころか休み時間も学生同士の会話もあまりなくとても静かで、(クラスによってはわいのわいのとにぎやかなクラスも多いのですが…。)4人の担当教師みんなでとても心配をしていました。
担任のT先生は、週に1回席替えをしたり、自らクラスの飲み会を企画しみんなを誘ったり…そんな努力の甲斐あって今では本当に仲のいい、いいクラスになりました。
でも、今でもそう盛り上がりのあるクラスではありません。そういうキャラクターみたいです(笑)。
こんなプレゼントをもらうと、本当に日本語教師をしていてよかったな、日本語教師っていい仕事だな、と思います。
みなさんは、どんなクリスマスプレゼントをもらいましたか?
*結構長い動画なので、お暇な方、大掃除の息抜きがしたい方などは、よろしかったら見てみてください。Facebookのアカウントを持っている方限定ですが…。

 

 

https://www.facebook.com/video.php?v=10152383534856157&set=vb.560951156&type=2&theater

学生たちが「日本語が上手ですね」とほめられるのは なぜ?

インターカルトは4学期制で、10月10日から秋学期がスタートしました。

私が新しく、クラス担任をすることになった中級中期のクラスで

「日本に来てわかったこと/外国へ行ってわかったこと」というテーマで作文を書きました。イギリスで思ったこと、エジプトで感じたことを書いた学生もいましたが、あとは皆、日本でわかったことを作文にしていました。「日本に来てわかったこと」とは、「来る前は知らなかった」ということで、つまり「日本に来てびっくりしたこと」を挙げていました。

①街にごみ箱がない。自動販売機は多い。

②電車が激しく混んでいる。

③夜遅くまでやっている飲食店がないので、おなかがすいた時、困る。開いているのはコンビニと居酒屋だけ。

④各地にいろいろなお祭りがあって、祭りの時の日本人はとても元気。特に「よさこい祭り」

などなど・・・

その中で、アメリカからの女性Мさんの作文には、「う~ん」と考えさせられました。

数年前に来日し、当時は現在に比べて、ほとんど日本語が出来なかったのに、時々「日本語が上手ですね。」と言われたそう。その時、どうして日本人はそんなウソを言うのかと不思議だったとのこと。最後にМさんは、「日本人は、外国人が日本語を話すのはとても難しいと思っている。その日本語を話している外国人にお礼が言いたくて『日本語が上手ですね。』と言うのだと、今はわかった。」と考察している。

なるほど。

日本語学習者であるインターカルトの学生が、学校の外で出会う日本人によく言われるのは、「いつ日本に来ましたか?」と「日本語が上手ですね。」だと聞いたことがあります。

日本語教師である私たちは、学習者にとって何が難しいかということを知っていることが、教える際の大いなる道具、いわば財産なのです。でも、日本語教師でない一般の方々が、「日本語は難しい」と思っているだろうことは、何となくわかります。日本に来る外国人が珍しかった時代を知っている年配の方は、殊更そう感じるのではないでしょうか。

だから、お礼を言いたくなるのでしょう。Мさんは、作文に「外国人にお礼をしたくて」と書いてありましたが、それこそ、気のきいた和菓子でも持っていればそれをプレゼントしたいぐらいの気持ちでしょうか。

インターカルトで学んでいる学生たちは、それぞれの目的を持って来日していますが、日本が好きと言ってくれる人が多いです。しかし、日本語には、めんどくさいと思われる文法や、数多い様々な語彙、そして読み方が多く、音変化もある漢字の読み、いろいろな覚えることがたくさん。日本語学習に果敢に挑戦している学生たちを敬服します。

Mさんは、「ウソ?お世辞?」とも書いていましたが、自分の母語を学んでくれることのありがたみを改めて感じた次第です。

神本136

まっすぐのびるJR身延線

今日は、鉄道ファンの神本令子がお送りしました。

共通点

こんにちは。ウィークリーコースを担当している秋山です。

梅雨の時期、天気がどんよりしている時や、まだ週末の疲れが残っているなと感じる月曜の朝など、張り切って勉強しようと思っても、なかなか気持ちが乗らない時があるかと思います。そんな雰囲気を変えるために、授業の初めに時々してみることがあります。「共通点探し」です。

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ペアになって、1分間でできるだけ多くの共通点を探し出すというものです。1つでも多く見つけ出すために、限られた時間の中で自分のことをたくさん話し、相手のこともたくさん聞き出そうと一生懸命話します。初対面の人とペアになっても、共通点が多く見つかると嬉しそうにハイタッチをしていたり、逆に、まったく共通点が見つからず思わず笑ってしまうペアもいたりしますが、クラスの学生の意外な一面や、思わぬ共通点が発見でき、おもしろいです。相手との共通点が見つかると、初対面の人でも身近に感じられ、会話が弾むという経験は私もよくあります。

先日のクラスでも、久しぶりにこの共通点探しをしてみました。小さい頃から水泳をしている、国の大学で日本語を勉強していた、何々というゲームが好きなど、ペアでたくさんの共通点を探し出していました。その次に、「このクラスの全員の共通点は?」と聞いてみると、「日本語を勉強しています。」「外国人です。」「若いです。」など、瞬時にいろいろな共通点を挙げていました。そして最後に、「じゃ、みなさんと私の共通点は?」と聞いてみると、しばらく考えた後に、一つだけ「人間です。」という答えが返ってきました。他にもあると思うのですが…。

 

 

世の中で一番むずかしいこと

長期コースの教師をしている神本です。

 

今日は、担任をしている上級クラスで行った「話す」の授業について、報告します。

「話す」は、いろいろなタイプの「話す」をやりますが、今日のは「話したいことをとにかく話してみる」と言いましょうか。お題にそって、グループで一人一人が話すものです。人間、見て聞いてびっくりしたこと、面白かったことなど、「ねえ、聞いて聞いて!」と話したくなることがありますよね。そんな話したい「話す」を目指して、時々やっているものです。

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今日のテーマは、

①最近の私 (1分)

②今までで一番うれしかったこと (1分)

③今までで一番こわかったこと (1分)

④世の中で一番むずかしいこと (1分)

⑤世の中で一番価値のあること (1分)

 

④の「世の中で一番むずかしいこと」は、土曜日に、体重を量ってショックを受けた時に、何年も何十年も念頭に置きながら、私がやれないでいる「腹八分目」のことから、思いついたものです。⑤はそれからの連想です。

 

グループ(今回は4人グループ)で一人一人1分ずつ話すのですが、間違いを修正したり、的確な語彙や文型を教えたりは、一切しません。本人が、どうにかして話したい内容をグループのメンバーに伝えるのです。ですから、教師である私は、各グループでの話をちょっと近づいて聞いたり、遠巻きにして、聞いたりしています。

 

今回は、「それぞれの個性が出ているなー」とつくづく感じました。

 

☆今までで一番うれしかったこと

・アルバイトの時給がようやく千円になった。(Zさん)

・高校時代のスピーチ大会で、みんなの反応がよかった。(A君)

・高校時代に大好きな彼女に出会った。 (E君)

☆今までで一番こわかったこと

・海でおぼれかけた。(E君)

・四歳のとき、家の窓の外にゴーストを見た。(T君)

・勉強漬けの中高校時代の、厳しい先生にいつも注意されたこと(Zさん)

☆世の中で一番むずかしいこと

・動物の気持ちを知ることと、寝ている時の夢が本当になること(Pさん)

・やっているゲームをやめること(R君)

・全部のポケモンを集めること(T君)

☆世の中で一番価値のあること

・お金を得ること(T君)

・夢を持っていること(Pさん)

・平和への道を作ることと、クリンエネルギー(T君)

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その他

「友達と過ごす」「彼(彼女)と過ごす」・・・・

かつて、このプログラムをやっている時に「後生 畏るべし」と感じたことを覚えていますが、今回は、一人一人の「どんな人か」がよくわかった時間になったように思います。前学期の四つのクラスから来た学生の合併クラスに新入生が加入したクラスなので、まだお互いによく知り合っていないところがありましたが、とても楽しそうで、いい時間になったようです。いつもおとなしい学生が、こんなに笑い転げることもあるのだと知って、すこしびっくりしたり。

ということで、今日の授業の報告でした。

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第12回研究発表会を開催いたしました。

桜の花も開花し、めっきり春らしくなった先月29日(土)に第12回研究発表会が開催されました。会場は芝離宮、浜離宮にも近い東京都立産業貿易センター浜松町館です。

会場には当校の教員はもちろん、養成講座の修了生、各日本語学校、専門学校の先生方、ボランティアで日本語を教えていらっしゃる方など日本語教育に携わる多くの方がいらっしゃいました。開会前は、お互いの近況報告や情報交換などをされている姿があちらこちらで見られました。

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今回の総合テーマは「日本語教育の未来を見つめて」です。

①基調講演は「21世紀の日本語教育 21世紀型スキル・e-learning等のキーワードから考える」です。正に今回の発表会の冒頭を飾るにふさわしい内容でした。、講師の篠﨑大司先生(別府大学文学部国際言語・文化学科准教授)からICT技術を取り入れた日本語の授業スタイルをご紹介いただきました。講演を聞く前は「e-learningとかICTとか言われても、よくわからない」という方も中にはいらしたようですが、篠﨑大司先生は、メリット/デメリットも含めてわかりやすく丁寧にお話されました。講演が終わった後では「そんなに難しいものではないんですね」という声も聞かれました。これまでの対面授業のスタイルに縛られない、新しい時代の日本語教育について考えるきっかけになったのではないでしょうか。

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②研究発表は当校のベテラン教師、大村礼子、神本令子のWレイコ先生による「日本語能力試験 新傾向問題の分析と対策~N1・N2文法~」です。2010年より大きく変わった日本語能力試験が日本語学習者にどんな力を求めているのか、ということを出題例を挙げて、会場の参加者と一緒に分析しました。「(例に挙げた表現は)日本人がごく自然に使っているものなので、生の教材には数多く存在するはずである。それを逃さず取り上げていくのが教師の役割である」という結論に多くの方が頷いていらっしゃいました。

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③教育現場からの報告は当校の若手教師、田栗春菜先生の「生活者としての外国人が求めていることに対して日本語学校で何ができるか~文化庁委託事業『地域の日本語教室』の現場から~」です。本校が本事業の受託を開始して5年、これまでの経過を振り返り、今後地域の中で日本語学校はどのような役割を担うことができるのか。単なる報告ではなく、現場で学習者と向き合っているからこそ出てくる疑問や葛藤を交えての話がありました。発表後に「興味があるので今後かかわりたい」という方もいらっしゃったと聞いております。

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④最後は特別企画  「3.11被災地ボランティアをしている学生へのインタビュー」です。先日(4日前)当校を卒業したばかりの黄可為さんに日本語使用者の目を通して見た被災地ボランティアについて語ってもらいました。時折ユーモアを交えて自らの貴重な体験を語った彼の日本語は、完璧ではないものの確実に会場にいらした方の胸に届いた思います。後半は、インタビュアーとして当校の萩原秀樹先生が彼の活動と言葉から導かれた日本語教育観、あるいは教師観、学習者観といったものを提示しました。今後の日本語教育、日本語学校に貢献できるようないくつかの視点の見直し、捉え直し等を考える機会になったかと思います。

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以上で、プログラムは全て終了しました。どの発表も前述した総合テーマ「日本語教育の未来を見つめて」にふさわしく、これから日本語学校および日本語教育に携わっていく人にとって必要な内容、役に立つ内容だったと思います。閉会後も発表者のところへ行って質問している方、お互いに感想を話されている方などが見られましたが、時間が限られていたことが残念でした。

 

 

今回の研究発表会の内容はこちらをご覧くださ。

過去の研究発表会についてはこちらをご覧ください。

プチ自慢

上級クラスで高校の国語教科書を使っています。

三省堂発行の『国語総合 現代文編』。25KouKoukokugoSogo1

採用にあたっては、老舗の明治図書とか筑摩書房もながめましたが、正直言って、どれも似たり寄ったり。 いわゆる定番教材的なものがずらりと並んでいます。 もちろん、芥川龍之介「羅生門」や太宰治「富岳百景」に代表される定番のそれが悪いわけでは決してありません。 でも、せっかくだから学生の関心をもう少し引くような、比較的新しめのものに接する機会を・・・ ということで、この一冊に。

収録作品は私の好きな 川上弘美「神様」のほか、文章の美しい 福岡伸一「生物と無生物のあいだ」。そして 思想家の内田樹、科学者の池田清彦、作家の多和田葉子といった論客。 いずれも各界で活躍中の方々ですね。もちろん、鈴木孝夫、山崎正和といった長年採用の大家もはずしていません。

ですが、そうした作品に勝るとも劣らず、ポイントになったのは、装丁。 なかなかしゃれている。本文のデザインも地味ながらセンスがいい。 だれの手になるものなのかなぁ・・・と思って奥付を見たら、 「クラフト・エヴィング商會」とありました。 近年、装丁に限らず、さまざまな分野で活躍中の夫婦によるユニット名。 この教科書の巻末にも、ウィットに富んだステキな文章をさりげなく寄せています。目下、世田谷文学館では初の展覧会が開催中。

今週の授業では、村上春樹訳のティム・オブライエン「待ち伏せ」を読み、その訳文の巧みさに、学生ともども感心していたしだいです。この作品も定番教材のよう。 また、中村安希「インパラの朝」は筆者が執筆当時20代だったことに学生は驚き、その内容にも共鳴した人は文庫本を買い求めていました。作品の力ですね。

そんなこんなで、学生にも比較的評判のいい教科書なのですが、協働しているほかの先生からも、「これはいい選択だった」とお褒めのことばをいただきました。 つまり、私の眼力もまんざらではないということで。プチ自慢。 萩原でした。