Archive for 萩原秀樹

みずまる

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の世田谷文学館で、「イラストレーター 安西水丸展」が開催中(9月20日まで)。安西さんの表紙で知られる村上春樹の作品の読者でも、安西さんの絵本で育ったのでもない私です。それでも、作品に接するたび、ふわりと漂ってくる明るさと温かさ、そしてどこかユーモアのある表現に惹かれます。

会場には、おそらく村上ファンと思われる50代前後の方のほか、絵本を読み聞かせ中なのかなと思える、そんな小さな子ども連れの30代くらいの若い夫婦もちらほらいて、全体では女性が過半を占めていました。

以前たまたま訪ねた仙台市文学館で、やはり偶然遭遇した安西さんの企画展は亡くなった(2014年)直後の開催だったのですが、その時よりも親近感が増した気がするのはどうしてでしょうか。

今回あらためて強く印象に残ったのは、説明過多にならない作品の数々。語りすぎず、かといって説明不足にもならず、すべてこちらに任せられ、ぽんと放り出されてしまう感覚は、決して不快なものではありません。心なしか揺らぎのある線で描かれた画からはそよ風が流れてくるようで、観る側は穏やかな時間を手にすることができます。コロナウィルスをはじめ何かと殺伐としがちなこの時代にこそ、求められてよいのかもしれません。

あまりの心地よさに立ち去りがたく、館内をしばらくうろうろしていた私でしたが、併設のカフェでしばしの休憩ののち、小さなポスターを手に帰途につきました。

こんな私ですが、安西さんと一つだけ共通点があるとすれば、それは千葉の千倉町(具体的な内容は秘密)。安西さんが描いた千倉の海のポストカードは、仙台以来、自宅の書棚に飾ってあります。

この文学館は足を運ぶには少し不便な立地ですが、過去にも萩原朔太郎展や大岡信展のほか、井上ひさし展やクラフト・エヴィング商會展、あるいは石ノ森章太郎展、安野モヨコ展などを、目配りの利いた、実に多彩な内容で開催。さらには小松左京展や筒井康隆展といったSF小説ファンにはたまらない展示も手掛けていて、相当に企画力の高い、目利きの、優れた学芸員がそろっていると感じます。ちなみに次回は漫画家・谷口ジロー展だそう。

深夜ドラマ「孤独のグルメ」の原作でも知られる方ですが、それ以前の作品も大好きでサイン会に足を運んだ私、この秋、絶対に行かねばなりません。

千と千尋

「千と千尋の神隠し」(2001)

学生にも人気のアニメ映画。

先日、映画館のスクリーンで初めて観ました。

おおっ。いいねぇ。

今まではDVDでしか観たことがなかったので、新鮮でした。

 

このアニメ、とっても奥が深く、単なる娯楽作品として片づけてしまうには、あまりにもったいない。

そう考え、毎年授業で取り上げています。

その一つが、タイトル。

なぜ「千と千尋」なのか。

これは、この作品のポイントであり、ズバリ答えでもあります。

それは最後にくっきりとわかるのですが、途中までなかなか見えてこないことです。

学生がすぐに気づくことは、相当に難しいでしょう。

ちなみに、私の名前とも微妙に関連しているので、学生はふうん…と言ってくれます。

 

もう一つは、大勢出てくる神様たち。

楽しいです。かわいいです。不思議です。

でも、すべてが監督・宮崎駿氏の空想の産物ではなく、その多くにはきちんと意味があり、オリジナル(原型)があります。

それを読み解いていくのも、授業のおもしろさ。

 

 

 

 

 

 

ほかにも、ほかにも…。

さて、この授業、今年はできるでしょうか。

名曲は名曲

新旧のアイドルによる曲と、アダルト向けの曲。それぞれの対照的な歌詞を紹介する時間があります。

今回の登場は、まず、フィンガー5「学園天国」(1974)。往年の人気5人グループ、その代表曲です。♪yeah!  学校生活を舞台にした実に明快な歌詞で、学生は楽しんでくれました。最後は一緒にコーラス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて、テレサ・テン「時の流れに身をまかせ」(1986)。

語彙と表現はわかりやすいのですが、意味内容は決してやさしくありません。よくよく見ていくと、何やらざわざわする関係性が描かれているようです。そこにすぐに気づく(経験豊富な?)学生もいれば、ピンとこない(純粋な?)人も。これはこれで反応の違いは楽しいものです。

個人的には、「時の流れ~」は、ひと昔いやふた昔前のセンス、情感かなとも思わなくもないですが、当時は当時、その時代を反映しています。学生には納得してくれる人もいれば、いや私は違うという人もいました。

ちなみに、こちらも最後は全員でコーラス。♪時の流れに身をまかせ~

アメリカから来た学生が、心地よさそうに口ずさんでいたのが印象的でした。確かに、名曲は名曲。

 

旅の美術館

主に日本国内を旅します。でも、旅先では観光地にはほとんど寄りません。そんな私ですが、タイミングを合わせ、できるだけ寄るところがあります。

それは、美術館、ときどき博物館。
もう一つは、図書館。
それぞれに、その土地、その土地の個性を見せてくれる場合も多いですし、建物が魅力的なものもあります。

ここ数か月の間に訪ねた、旅先の美術館。そこで観たものは…

福島県立美術館「東日本大震災復興祈念 伊藤若冲」
動植物の細密画は少なめでしたが、数々の墨画に心がひかれました。東京の時と違い観客はあまりいなくて、じっくり鑑賞できました。

 

 

 

 

 

 

 

 

宮城県立美術館「横山華山」
繊細で豪快な屏風絵もありました。全体ではとっても落ち着いていましたけれど、う~ん、私には今ひとつ印象に残りませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

アーツ前橋「岡本太郎と『今日の芸術』」
空前絶後、驚天動地の作品世界にとっぷり浸ることができました。彼は文章も魅力的で、読む側は思考の幅が広がりそうです。この時、お客さんはほぼゼロ。私が作品を1時間以上独占しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

静岡県立美術館「屏風爛漫」
思いがけず楽しめた、バラエティに富む屏風絵ばかりでした。ここはいつも個性的な展示を工夫しています。併設のロダン館には彫刻の大作が集まっています。じっくり観て、ゆっくり過ごせて、お得。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄県立美術館「ホキ美術館 名品展」
ここもお気に入りのところで、今回は好きな美術館の特別展でした。現代日本の写実画の名品ぞろいで、とにかく圧倒され続け、感動。まるで写真のよう、ではなく、写真を超えてぐっと迫るものがあり、飽きません。作品の前からしばらく動けませんでした。私の部屋にもほしいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各地の図書館については、また半年後、お伝えしたいなと思います。

「学ラン」

巷では、ランニングがブーム、いや、もうすでに定着しているようです。
先日訪ねた博多では、大濠公園がものすごく込んでいました。
非舗装路、土のでこぼこ道を走るトレイルランの愛好家も増加しているとか。
しかし、実は学生時代から山野をめぐるランをしており(一応クラブにも所属)、だらだら…と続けて、かれこれ数十年。
さすがに最近は大会等への参加頻度こそ激減していますが、隙あらば自宅周辺を走っています。

学会その他で訪ねる地方の街へは、バッグに欠かさずシューズをしのばせます。


今年で言えば、例えば、さきの博多。
例えば、広島、奈良、大津。
例えば、静岡、あるいは、新潟、プラス佐渡。
やむなくキャンセルしたのは、弘前。
近くでは、熱海、市原(千葉)。
年内は、三島。
予定が合えば、福島、仙台。
二度と走れないだろうところを、地図も見ずに勘で走ります。

「旅ラン」という言葉もあるようですが、私の場合は「学ラン」。
理想は、朝走って、昼間は勉強し、夕方は美術館。
夜は地元の本屋さんか喫茶店。
古本屋さんもいいし、ブックカフェもいい。

ちなみに、ごくたまに海外へ行く時も、シューズは必携です。
一部海外ではランニング人口はとみに増えている印象がありますね。

花束を君に

歌詞に焦点化した授業を毎週しています。

80年代、90年代に続き、今季は「アイドルの歌詞の世界」と銘打ち、1曲目はアイドルの曲を取り上げ、2曲目はアイドルとは関係なく、私が好きな曲を「聴け~っ!」とばかりに強制的に聴いてもらっています。

 

とてもいいのです。

アイドルなら60年代の「上を向いて歩こう」by坂本九、70年代の「木綿のハンカチーフ」by太田裕美から「365日の紙飛行機」byAKB48まで。好きな曲でいえば「いっそセレナーデ」by井上陽水も「花束を君に」by宇多田ヒカルも、学生にはすべて受け入れられました。いいね!の連打。

メロディー、旋律もさることながら、注目は詩の力、言葉の力です。いいものは時代も、国籍も超えます。それはまさに、昨年「風をあつめて」byはっぴいえんど が好評だったことからも証明されています。

そして、授業の準備に歌詞を一言一句立ち止まって確認していくと、技巧面を含め新たな世界が見えてきます。聞き流していたときにはまったく気づかない、新鮮な学び。

 

そういえば。

「谷川俊太郎展」が東京・初台の東京オペラシティで開催中。私は谷川さんのファンでも作品の愛好者でもありませんが、一見の価値があると思います。言葉遊びの素材としてのみならず、模倣創作するにも、谷川さんの作品群は格好の素材です。

いらくんとすとちゃん

日本で一番有名な男の子といえば、フリー素材集「いらすとや」に出てくる、この子ではないかと思います。嫌味がなくて、明るくて、かわいいですよね。

たぶん日本語教師の間でも、最も有名人。配布教材を作っている方でこの子を見たことがない方は皆無でしょう。365日連日連夜、いささか酷使気味ではないかと思うほどの活躍ぶり。最近は、公共団体の配布物やポスター等で彼の雄姿を頻繁に見かけるようになりました。

 

そこで、私は彼に名前をつけることにします。

その名は「いらくん」。

もちろん、「いらすとや」の男の子だから。

命名したのは私。

ここに宣言します。

かたや女の子は、もちろん「すとちゃん」。

これからも、よろしく。

仲良くしてね。

 

忘れていました。

作者の方への感謝を忘れてはなりません。

いつもいつもかわいいイラスト、ありがとうございます。

これからも作ってください。

以上です。

怪(カイ)の日本語

会期を終えたばかりの「大妖怪展」@江戸東京博物館。title

先月上旬に引率したのは、

選択授業「怪(カイ)の日本語」を受講している20名余の学生です。

平安・鎌倉時代の地獄絵から、室町時代の絵巻、江戸自体の浮世絵など、

国宝・重要文化財を多数含む日本美術の名品が一堂に会していて、

最後は縄文時代のの遮光土偶、そして現代の妖怪ウォッチで締めくくられています。
しゃこうどき

早々に会場を出てくる人もいれば、じっくり見てくる人もいます。

でも、多くがあげていたのが、昭和初期に描かれた「雪女」をはじめとする幽霊画。

あるいは、江戸時代の妖怪図や六道図。地獄絵にも興味があるようです。

イタリアの大学で紹介されていた、歌川国芳の「相馬の古内裏」の実物を見て

感動している人もいました。

相馬

次回は「怪しい絵本」「こわい絵本」を取り上げます。

一人2冊、図書館から借り出してくるのが課題。

どんなものを選んでくるのでしょうか。

火事がありました。

2週間前の木曜日、「民華」という御徒町駅近くの老舗の中華料理店で火の手が上がりました。

客席数は20ほどですが、雑誌等で取り上げられていたほどの名店。

どちらかと言うと質素な店構えで、昔ながらの4本脚のテーブルと素っ気ないビニール張りの椅子。

決して低価格ではありませんが、味に惹かれてか、お客さんは途絶えることはありません。

今は帰国している、担当クラスの学生がしばらくアルバイトをしていたこともあり、その際は何回か足を運びました。

ただ麺類、ご飯物とも、あいにく私好みの味ではありません。

それより、お齢を召した女将さんがばっちり仕切っていて、そのアルバイト学生の動きが鈍いと見るや

すぐさま指示が飛んでいたことが、肝心の料理より印象に残っています

そういえば、学生は女将さんの厳しさには不平を漏らすことはありませんでした。

そうそう、産経新聞とどこかのスポーツ新聞が常にテーブルに置いてありました。

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今も付近を通ると、焼け跡の焦げ臭いにおいがかすかに漂っています。

いまだに無残な姿をさらしている民華。怪我人こそ出なかったようでしたが、再建は…おそらくかなわないでしょう。

メニューの写真にあった、大ぶりのあの餃子を食べておけばよかった

餃子好きな私は今になって後悔するのでした。

寅さん、浜ちゃん

映画「男はつらいよ」と「釣りバカ日誌」の共通点は?

もちろん、コメディーです。ワンパターンの展開も重要です。そして主人公が(ちょっと世間から)ずれていること、マドンナがいること(「釣りバカ」ではサイドストーリー)、それから旅に出ること。一方は失恋に終わり、一方は恋が実る違いこそあれ、恋バナが絡みます。また、温かい家族、周囲の良好な人間関係の存在が背景にあります。

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しかし、日本語教育の側面からいうと・・・方言すなわち日本語のバリエーションに触れることができる点は見逃せません。描かれる方言は本物ではない(バーチャル)にしろ、学習者にとっては方言との貴重な接触機会です。もしかしたら、日本映画ほど方言を多用する映画は少ないのではないでしょうか。そう、日本映画は日本語の多様性を知る重要な素材になるのです。

そんな気づきを手にしながら、映画から日本語と日本社会を学ぶ授業を全9回実施しました。1日2本、作品の一部分を紹介しただけですが、それでも全18本。コメディー以外にも取り上げたのですが、特に寅さんと浜ちゃんは大人気でした。

ポイントは、シリーズのパターンを理解してもらうこと。そうすることで、1作品目より2作品目のほうがずっと理解が進み、ウケるのでした。共通するツボがあるのでしょうか。

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「寅さん」と並び「浜ちゃん」も、日本が誇るすばらしい映画、キャラクターだとの思いを強くしました。