先日、イタリア人の女子学生が黒のスーツを着てきました。聞けば午後に企業の面接があるという。周りの先生たちは「素敵ね、大人っぽいね」と言っていました。でも私は違和感を感じました。イタリア人の女性なら、せめて気に入った色柄のスカーフでもつけたらいいのに。別の日、やはり面接があると言って、スウェーデン人の男子学生が黒のスーツを着てきました。ネクタイも黒無地。さすがにこれは注意しました。
ところで、リクルートスーツが黒一辺倒になったのはいつごろからでしょうか。ネットで調べてみました。
「黒スーツ」が流行を始めたのは2000年ごろの就職イベントの大規模化が一因ではないかと分析している。不況による買い手市場化で、学生は萎縮し、就職イベントの参加者が数千人規模から数万人規模になるにつれて、なるべく目立たないようにと黒を選ぶようになった。(AERA 2014年4月7日号)
リクルートスーツが個性をなくすという批判は、以前から言われてました。日本事情としても教科書などによく取り上げられています。
個性が求められる時代に、みんなと同じ服で登場しなくてはいけない理由はない。無難だからという守りの姿勢もいただけない。(「中級を学ぼう 中級中期」1課 関連読み物)
ただ、最近の学生や若い人たちを見ていると、黒のスーツを着ることに抵抗はないように思えるのです。
そこで、どうしてリクルートスーツが黒になったのか、考えてみました。
★ファッションとしての黒
私の印象に残っているのは、1970年代後半のミュージックシーンにパンク、ニューウェイブと共に登場した2トーンです。当時の若者が着ていた白黒の服装です。それまでのサイケ~ヒッピー~ジーンズ~ウェストコースや、グラムファッションなどと一線を画すものでした。それ以降、若者のファッションのメインストリームから黒が外れたことがなかったと思います。
ファッションとして定着しているなら、若者たちは抵抗なく、いや喜んで、みんなと同じ色を着るでしょう。
★ビジネスシーンでの黒
そもそもビジネスマナーとして黒はどうなんでしょう。
若い世代を中心に、黒のスーツを着る人が増えています。いまや一概にマナー違反とはいえませんが、欧米のビジネスマンで黒のスーツを着る人はいません。どんな場面にも通用するのは、ネイビーとグレー。柄は無地、もしくは控えめなストライプです。(PRESIDENT Online)
私のころ(1980年代)、リクルートスーツといえば、紺かチャコールグレーでした。ちなみに私は、みんなと同じ紺ではおもしろくないので、ピンストライプにしたと記憶しています。ホテルやレストランなどの職種以外で黒のスーツを着ている人はめったにいませんでした。
★スーツ業界にとっての黒
黒スーツが増え始めたのは2000年からというが、実はこの時期から、スーツ量販店がブランド戦略を加速させているのだ。同時に量販店で働く店員は、口うるさく着こなし方などをアドバイスしてくるベテランから、採寸するだけの若者に取って代わった。企業にとっては人件費を安く抑えられるが、その一方で、スーツ売り場の店員はいわば素人レベルとなり、社会的なルールを伝えることがなくなってしまったのではないか。前述の「AERA」の記事でも、スーツの量販店で店員に「1着目は黒がいい」と勧められた」という証言もある (Business Journal)
「黒を着こなせる人は本当のおしゃれな人だ」と言われますが、そうでなくてもそれなりにまとめられるでしょう。黒を勧めれば販売員も楽です。黒スーツを普及させようとしているのは量販店ではないか、という声もあります。以前、私はスーツに合わせるネクタイを買う時は、デパートのネクタイ売り場で信頼できる女性販売員に相談したものです。ちょっと面倒ですけど、それも服装の楽しみ方ではないでしょうか。
★企業にとっての黒
それぞれの業界、企業によって様々でしょう。中には採用活動における「服装自由化」を宣言したソニーグループのような企業もありますが、今なお学生の間には「黒の神話」が根付いています。毎年あれだけの黒スーツの学生と面接しているのですから、少なくとも企業側は黒のスーツを否定していないでしょう。
「当社は個性を重視する」などとよく聞きますが、その「個性」とともに日本の企業で重視されるのが「協調性」です。その辺のバランスが曖昧なのではないでしょうか。「平均的な個性を重視しています」というのが無難な線かもしれません。
そして、企業の面接で学生に対してよく出される質問がこれです。
「自分を色で表すと何色ですか?」
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